美術館だより（令和3年度5月号）

「作品『寒村暮色』との対話」

　ある来館者の方から「こちらにあります絵の見方を教えていただきたいのですが」と声をかけていただきました。その絵は原田新八郎先生が欧州スケッチ旅行で描かれた一枚で、私も好きな作品です。たくさん展示されている水彩画の中から選ばれた一点でした。 
 

『寒村暮色』ベルギー・フランス国境　水彩　20cm×29cm
（常設展第2集、作品目録番号64）

　絵画の鑑賞は、鑑賞する人の感性で、作品との対話で生まれてくるものだと考えていますので、私の感じ方と来館者の感じ方は違っていることを前提に、私の方からその方に質問をしていきました。「この絵の季節はいつ頃のものでしょうか」「そうですね。どうして、季節を初冬の頃と感じたのですか」「スケッチされた時刻は」「色使いで好きなところは」「右手の葉を落とした樹木と小さく描かれた樹木の位置関係はどう見えますか」「この場にいたら、風はどう吹いているでしょうか」「たくさんの絵の中からこの絵を選ばれた理由を教えてください」

　こうした私とのやり取りから、その方はその方なりの鑑賞力を獲得されたのでは思います。その方は、その対象物との向き合い・対話から楽しい時間が持てたと喜んでいただきましたし、私自身も来館された方との楽しいひと時となりました。

　　　　　　　　　　　　糸島美術協会　吉丸　泰生